「働くクルマ」の自動運転 実用化に向けた動きが加速する理由

車両価格が億単位でも普及?

  • 自動車メーカー, 交通・物流・架装
  • 2019年8月5日

事業用車両で自動運転の実用化に向けた取り組みが本格化している。UDトラックスは、北海道の工場敷地内のクローズの環境下でドライバーが運転操作に関与しない自動運転レベル4(限定地域での自動運転)の実証実験を8月に実施する。ロボットベンチャーのZMPは、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の一種として日の丸交通、日本交通とともに、自動運転タクシーと空港リムジンバスを組み合わせた移動サービスの実証実験を実施する。実用化の面でも三菱ふそうトラック・バスが今秋に市場投入する予定の大型トラックで自動運転レベル2(部分自動運転)の機能を搭載する方針。ドライバー不足という危機感を背景に、自動運転は事業用自動車で先行しそうだ。

トラックやタクシーといった事業用自動車で、自動運転の開発が加速しているのはドライバー不足やドライバーの高齢化が背景にある。インターネット通販市場の拡大に伴って宅配需要が伸びている一方で、トラックドライバー不足の問題は深刻化しており、2027年には求人に対して24万人、全体の25%が不足するとの予測もある。タクシーでもドライバー不足によって都内の法人タクシーの2018年の稼働率は76.1%にまで低下、乗務員の半数が60歳以上と高齢化が進む。今後、団塊の世代のドライバーが大量リタイアすると、トラックもタクシーも稼働率は「危機的状況に陥る」可能性がある。

こうした状況下、自動運転がドライバー不足という課題を解決する技術として注目されており、開発が本格化している。UDトラックスは日本通運、ホクレン農業協同組合連合会とともに、北海道で自動運転トラックの実証実験を8月の1カ月間実施。ホクレンが保有する精糖工場の施設内で、てん菜を集荷して加工する施設までの約2kmのルートをレベル4で自律走行する。実証試験は8月のオフシーズンに、閉鎖空間ながらUターンや右・左折、てん菜を受入投入口にバックで着けることを含めて実際に輸送している一連の動きを自動運転で1日中繰り返す。運転席にUDトラックスのドライバーが座るが、基本的に操作しない。

てん菜の集荷シーズンは約250台のトラックを使って加工場まで輸送しており、自動運転レベル4で輸送できれば生産性向上が図れる。UDトラックスは、2020年度に自動運転レベル4のトラックを事業者に貸し出し、港湾など、限定地域で実証して技術を評価するなど、閉鎖空間での実証を繰り返し、2030年の完全自動運転の商用化につなげていく構え。

日の丸交通と日本交通は、ZMPが開発したシステムを搭載した自動運転タクシーと、羽田/成田空港のリムジンバスを連携させた移動サービスを、2019年11月に2週間にわたって実証する。日の丸交通は昨年8月、六本木と大手町を結ぶルートで、自動運転タクシーの実証実験を実施した。運賃は1500円の定額で、13日間で95回運行し、345人が自動運転タクシーを体験したが「無事故・無違反で実験を完了した」という。日の丸交通の富田和宏社長は「自動運転はタクシーの需給バランスの調整弁として活用したい」としており、すべてを自動運転化するのでなく、ドライバー不足の部分だけに活用する方針だ。

今回の実証は自動運転タクシーと空港リムジンバスを組み合わせた移動サービスを、スマートフォンのアプリで一括予約できるようにして、利用者の利便性を評価する。タクシー事業のコストの内訳では7割以上が人件費で、車両コストは2割程度。自動運転タクシーによって車両コストは上昇するものの、人件費を抑制できる。さらに、自動運転タクシーに、他の交通機関を組み合わせたMaaSでの事業を展開することによる輸送需要の拡大も見込む。自動運転タクシーによって運転手不足の課題解決とともに、事業採算性改善の可能性を探る狙いもある。ZMPでは2023年には自動運転タクシーの実用化を目指している。

量産モデルでもトラックの自動運転が加速する。三菱ふそうは今秋に市場投入する予定の大型トラック「スーパーグレード」で自動運転レベル2を実用化する。ボッシュ製の単眼カメラと、コンチネンタルのミリ波レーダー、電動モーター付油圧式パワーステアリングを使って、ステアリング操作を支援する。

カメラで車線を認識して車線中央部分を走行するようにステアリングを自動制御するアクティブ・ドライブ・アシスト(ADA)を搭載する。ADAは60km/h以上で走行中、ドライバーが意図しない車線逸脱に対してもステアリング操作に介入して車線内に車両を戻す。ADAはドライバーがステアリングを持ち続ける必要があり、30秒以上の手放しで警告し、60秒以上の手放しで機能を自動で停止する。

また、衝突被害軽減ブレーキ「アクティブ・ブレーキ・アシスト(ABA)」の機能も強化する。新世代のABA5は車載カメラとレーダーを使って車両前方の障害物検知の精度を向上するとともに、歩行者も検知できるようにする。さらに夜間走行中、車載カメラが前方の光を判断してロービームとハイビームを自動で切り替える「インテリジェント・ヘッドランプ・コントロール」や、車載カメラが標識を読み取ってメーターディスプレイに表示する機能を搭載。運転支援に車載カメラをフル活用する。

三菱ふそうは、これら先進運転支援機能を、親会社であるダイムラーと共通化しており、センサーなども同じものを採用している。新型車の価格は公表していないものの、価格は大幅に上昇する見込みだが、部品共通化によって先進技術の採用に伴うコストアップをなるべく抑えて、自動運転機能の普及を図る方針だ。

自動運転は最新のセンサーや制御システムを搭載することから価格の上昇が避けられない。ただ、ドライバー不足による経営危機が現実の問題として迫っている「働く車」なら車両価格が上昇しても、人件費の削減、稼働率アップ、生産性の向上が見込まれることから、受け入れられる余地は大きい。タクシーの自動運転サービスの実用化を目指しているDeNAの中島宏執行役員・オートモーティブ事業本部長は「法制度は別にして、事業用車両を完全自動運転にできれば、車両代金が大幅に上昇したとしても人件費を吸収できる」と見ている。自動車メーカー各社も事業用自動車向けの自動運転の開発を加速している。自動運転システムを搭載した事業用車両の普及は早いかもしれない。

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