「今の自動運転社会は自動車メーカーなどの供給者側の発信で、ドライバーや一般市民など、利用者側にとって都市や地域がどう変わるかが議論されていない」―総合シンクタンクの三菱総合研究所は自動運転が人々の生活や地域、観光にどんな影響を与えるか予測するため「自動運転・モビリティサービスで変わる未来懇談会」を設立した。
自動運転技術の急速な進化によって、近い将来、完全自動運転社会が到来し、ドライバーレス自動運転車による通勤など、未来の車社会が想定されている。これらは主にITを使った産業革命を進める意向の政府や、自動運転を開発する側の自動車メーカーが想定しているものだ。
これに対して懇談会の座長を務める岸博幸慶應義塾大学教授は「近未来に自動運転が実現して、世の中が大きく変わるというが、本当に変わるのか」と疑問を呈する。懇談会では、2030年をターゲットに、高速道路では、ほぼ自動運転レベル4(限定地域での完全自動運転)が実現するものの、一般公道では衝突被害軽減ブレーキなどの先進運転支援システム(ADAS)が高度化する程度と想定する。ドライバーレスの自動運転車は地方で専用レーンを走行する自動運転バスが実用化されているほか、小型モビリティや、カーシェアリングは普及していると予想する。こうした状況下、自動運転で社会がどう変わるのか、2030年の暮らしや地域、観光がどう変わっているのか、住民や社会の視点で「地に足の着いた議論」をするため懇談会を設立した。
懇談会では、2030年に普及している自動運転技術を想定した上で「ドライバーのライフスタイルがどう変わるのか」「地域や市民生活がどのような影響を受けるのか」「より快適なカーライフを実現し、より効果的な経済効果をもたらすためには、国や民間がどのような対策をするべきか」を議論する。
自動運転の活用方法は、地域によって大きく異なることが予想される。このため、観光地、地方都市、都市郊外、都心部、地方中山間・島嶼部の5つの地域区分に分けて、変化を議論する。岸教授は、自動運転の普及で「人口30万人程度で衣・食・住が完結する生活しやすい環境が整う。地方都市で人間らしい生活ができる可能性がある」と予想する。また、移動が楽になる自動運転によって観光のニーズが増加し、メガ観光地が創出されると予想。「自動運転が地域や経済に与えるインパクトは大きく、自動運転のメリットを最大限得るための環境整備は自動車メーカーなどの供給者目線では足りない」(岸教授)と指摘する。
懇談会では、自動運転のメリットを享受するためには、レンタカーとカーシェア事業の運営と利用両方のハードルを下げることや、メガ観光都市に向けた受け入れ体制の環境整備、ニューエコノミック形成に向けたオフィスや産業の積極的な誘致、交通要素に対応した道路環境整備などを提言する方針だ。
岸教授は「世界一高齢化が進んでいる日本で、自動運転を活用したモビリティサービスを実現することは新しいビジネスモデルを(今後高齢化が進む)世界各地に提示することにもつながるはず」としている。
懇談会では今後、地域住民などに対するアンケートなども実施して今秋にとりまとめる予定だ。